Rasen-Kozue 10-invasion to the base
Rasen Kozue / chapter2 - Aria (4)


act:10-拠点侵入


 三人は徒歩で賊徒の拠点を目指していた。拠点の付近にも賊徒がいる可能性は高く、車を使用するのは危険だからだ。「正面からぶつかっても負けるつもりはないし、そんなことも無いだろうがな。まぁ、不意打ちで楽が出来るのならそれに越したことは無い」とは、アリアの談である。
 庚は肩から巨大なアルミのガンケースを下げていた。中には、あのプラズマライフルが居座っている。口碑はやめさせようとしたのだが、庚がどうしても言うことを聞かなかったのだ。当然、この中身をアリアに知られるのはまずい。プラズマライフルは隔離兵器――所持することすら重大な罪となる。アリアには「予備の武器と弾薬」だと誤魔化してあるが、その嘘が何時までもつのだろうか(アリアはそんなに要るのか? と軽く笑っていた。今の所信用は継続しているようだ)。
 口碑は目だけで後ろを歩く庚の顔を覗いた。庚のプラズマライフルへの執着は、どこか異常な程である。確かにプラズマライフルは強力且つ強大な兵器ではある――しかし、この状況ではそれをもつことによるメリットはかなり小さい。アリアの家の「武器庫」、そして彼女の性格から考えると、恐らくアリアとアルトアイゼン――つまり、この世界を牛耳る政府――とは何らかの繋がりが、その度合いはともかくとして、あるはずである。所詮大した生産価値を持たないであろうあの小さな村の警備をしているというのだから、恐らく社員ではないのだろうが。
 そう、そうだ。庚だけではない。この、アリアという女も全くもって不可解だ。たかが村の警備員にアルトアイゼンが重火器の所有を許可するだろうか――いや、まだ「きれいな」武器とは断言できない。アリアと会ってからまだ数日と経っていない。ろくに無い情報で強引に物事を自分勝手に決め付けるのは愚の骨頂に他ならない。
 つまり、だ。口碑は結論付けた。この二人は解らないことだらけだ、心を許すべきではない。アリアとは明日にでも別れることになるだろうが、庚との旅はこれからもまだ続く。俺にはやらなくちゃいけないことがある、そしてそれがこいつと同じだけだ。
 ――信用はしないが、利用は存分にしてやる。
「おい、気を付けろ」
 アリアが声を潜めて言った。「奴らの基地が見えてきたぞ」
 距離にして、四百メートルほどだろうか。この辺りは起伏が激しく、隆起した小型の岩山が多いため視界は悪いが、巨大な施設がはっきりと視界に映っていた。
「――でかいな」
 庚が半ば感心するかのように漏らした。確かに、その言葉の通り施設は相当大規模なものであった。アルトアイゼンの本部には及ばないものの、アリアの居た村が幾らでも入りそうだ。
「見えるか? あれがあの施設の入り口だ。あそこから中に入るのは当然難しい――が、残念ながら他に侵入できそうな所は皆無だ。先ず私が『侵入』する。存分に引っ掻き回してやるから、数分経ったらお前たちも続け。その後は個人行動だ、グランディスの顔は覚えているな?」
 口碑と庚は頷き、肯定。無謀に見える作戦だが、その実合理的ではある。一人が囮となり、頭ががら空きになった所を叩く――只、当然それには大きな危険が伴う。特に囮役となるものは、かなりの数を相手にしなければならなくなるだろう。しかし、アリアはそれをよしとした。正面からぶつかっても負ける気はしない――その言葉を体現する作戦だ。
 ゆっくりと、しかし確実に近づいてくる施設を前に、口碑は軽く息を吐き出した。こんなところで死ぬつもりは毛頭無い。しかし、それは楽にここを制圧できるという自信ではなかった。レッグホルスターの中の銃に指を這わせた。そのソリッドな感覚を感じ、再び、吐息。
 指を離したときには、呼吸は既に整っていた。

 さて。あの二人はどれだけ仕事を果たしてくれるかな。
 旧企業の施設を前に、アリアはそんなことを考えていた。まぁ、あいつがいるのだから、こちらの望んでいることは大概果たしてくれるだろう。
 男の叫び声が聞こえる。何かを警告している。視界に映るは、マシンガンを構えた二人の男。止まれ、そう言っているのか。私が大した装備をしていないから油断でもしてるのだろう。早く撃てば良いものを。
 軽く横へステップ。ほぼ同時に発砲音。先刻まで私がいた場所に砂煙が舞い起こる。受ける必要も、叩き落す必要も無い。目線と指先を読むだけで簡単に避けられる。
 ――他愛も無い。
 ど ど。
 正確に一発ずつ、合計二発。弾丸は男たちの頭蓋を撃ちぬき、血と脳漿が外壁を汚す。
 所詮、グランディス以外はこんなものか。これなら私ひとりでもどうにかなったか――。リボルバーをホルスターに戻し、施設の外壁へ張り付いた。男の体を足で転がし、マシンガンを拝借する。やはり、それなりに豪華な装備だな、と感心する。身軽さを優先するために軽装で来たのは正解だったようだ。――さて、本当に忙しいのはこれからだ。
 施設の中から怒号が響いてくる。十数人といったところか。不意打ちで三分の一、物陰から三分の一、正面切って三分の一。まぁ、「この程度」ならどうにでもなる。
 無用心に何人か警戒もせずに入り口から飛び出してきた。アリアは左手に持ったマシンガンのトリガーを引く。だ、だ、だ。その一見華奢な腕は、マシンガンのリコイルを完全に受け止め、びくともしない。その迅速且つ正確な射撃で、三人を撃ち抜いた。
 怒号がざわめきに変わる。その一瞬の隙に、アリアは入り口から左半身を覗かせ、マシンガンを構える。一秒とかからず敵の人数と位置を確認。横向きに構えたマシンガンをフルバースト、マシンガンが弾丸を吐き出すたびに反動で銃口は僅かに上方――つまりこの場合は横向きに――に向く。その間にも弾丸は吐き出され続け、銃口はさらにその向きを変える。つまり、弾幕を薙ぎ払う形で張ることとなり、直線的な線の攻撃となる銃の欠点を補い、「面」の攻撃を可能とするのだ。
 反撃を与える間もなく、アリアは呻き声のひしめく施設内へ突撃する。弾を撃ち尽くしたマシンガンを放り投げ、レッグホルスターから愛用のリボルバーを抜いた。マシンガンの斉射を浴びることのなかった後方の男たちが慌ててマシンガンを構える。しかし、それよりもワンテンポ早くアリアは狙いを定めていた。
 だんっ! だんっ! だんっ! だんっ!
 ハンマーが四度落ち、弾薬の雷管を叩く。銃口から吐き出された大口径の弾頭は次々と残った男たちを撃ち抜いた。呻き声とともに崩れ落ちる男たち。しかし、全員がアリアの弾丸に倒れたわけではない。致命的なダメージを負いつつも一矢報いようと立ち上がったものが、三人。
『おおおおおおおっ!!』
 叫ぶ。痛みによって、怒りによって、恐怖によって、怯えによって。それは広い施設内に木霊し、奇妙な合唱となる。
 同時に火を噴くマシンガン。アリアはそれらを横へ倒れこむようにして回避。左掌を床につき、体を大きく捻りつつ跳ぶ。それと同時にリボルバーのシリンダーをスイングアウト、回転の動作でそのまま排莢する。弾幕は常にアリアのすぐ脇を駆け抜け、その度に凄まじい熱がアリアを襲う。しかし、全く動じていない様子で、彼女はベルトに装着されたクイックローダー――円盤状の器具に六発の弾薬が設置されたもので、迅速な弾薬の装填を可能とする――の一つを抜き取った。そして、着地と同時に弾薬をシリンダーに叩き込む。
「生き返った」リボルバーが、再び狂ったように弾丸を吐き出した。一瞬の内に三発の弾丸が発射され、男たちの頭蓋を確実に粉砕した。ゆっくりと倒れこむ男の死体は未だにマシンガンのトリガーを引き続け、壁へ、天井へ弾痕を残す。
「――なかなか根性があるじゃあないか、見直したぞ」
 既に生命活動を終えている亡骸へ視線を落とす。彼らの存在はこの世界の安全を脅かすものではあるが、アリアは自らの死を悟りながらも立ち向かってくる彼らに賞賛の言葉を送った。
「さて」
 こんな所で休憩しているわけには行かない。まだ敵はかなりの数が残っているはずだ。流石にこんな所で全員とやり合えば、無傷ではすまないだろう。
 アリアは一度入り口を振り返ると、すぐに施設の奥へ駆け出した。

 施設内から聞こえてくる怒号、そして銃声。しかし、それは段々と施設の奥へと遠ざかっていく。
 既に入り口手前まで来ていた口碑と庚は、中の様子を伺っていた。見たところ、人の気配は無い。口碑は庚と目配せをし、施設内へと潜入した。
 事前にたてておいた予定通り、庚は一階、口碑は二階を探す。二階へ続く階段は入り口に入ってすぐ左にあり、そこで二人は別れた。口碑はなるべく音を立てないように階段を上っていく。慎重に、階段から二階の通路を覗き見る。細い通路が十数メートル続き、直角に折れ曲がっている。壁には無数の扉。人気は――無い。
 口碑はホルスターからハンドガンを抜き取り、一番手前のドアの前に張り付く。擦りガラスのため中の様子は見えず、物音も聞こえない。
 意を決し、勢い良く扉を押し開けた。
 ――そこにあるのは、静寂。
 軽く、吐息。銃を下ろし、部屋を見回す。散乱した書類、薄く埃の積もった机。この部屋は現在は使われていないようだ。口碑は足元にある一枚の書類を拾い上げ、埃を払う。
「プロジェクト・・・ヘブン?」
 一通り目を通してみても、その書類がどういったものなのかは口碑には理解できなかった。そこに書いてあるのは、見たことも無い企業の社章と、聞いたことも無い年号、そして、理解することのできない天国と名付けられた計画の概要。
 興味を惹かれた口碑は、それを折り畳みポケットに突っ込んだ。何故そうしようと思ったのか、口碑自信にも解らなかった。再び息を吐き、気持ちを入れ替える。そして振り返り、部屋を出ようとした。
「・・・誰だっ!」
 はっとし、通路の奥を見る。銃を構えた、三人の男。
 舌打ちする。くそ――何をやっているんだ俺は。得体の知れない資料に気をとられ、集中力を切らすなんて――。
「侵入者だっ! 撃てぇっ!」
 ハンドガンは持ったまま――しかし、発砲はしない。体制を低くし、先頭の男の足元に飛びかかる。奇襲に動揺した男は、体制を崩し、転倒する。マシンガンの弾が壁に穴を穿つ。
 暴れる男の上で口碑は初めて銃を構えた。トリガーを引く。内蔵式のハンマーが薬室の弾薬の雷管を叩く。弾頭は後続の男の首を撃ち抜いた。通路に鮮血が舞う。その間に示談の装填が完了。焦ることなく、冷静に、口碑は再びトリガーを引いた。
 ばんっ!
 最後尾の男の手首が吹き飛んだ。一拍おいてから、激しい悲鳴が木霊する。
「どうやら――」
 立ち上がり、今も暴れている男の首に足をかけた。
「静かにやるのは性に合っていない」
 口碑の耳に命乞いの声が聞こえる。しかし、口碑はそれ諸共男の首を踏み砕いた。
「遅いか早いかだ――大した違いは無いさ」
 叫び声は既に止んでいた――周りにはあるのは三つの死骸と血の海。誰にとも無く呟いた口碑のその目は、深い色に濁っていた。

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